失踪の社会学:親密性と責任をめぐる試論 中森 弘樹 責任 周囲 世間 社会

「失踪」なんて、自分の身の回りにはなく、
関係ない世界、
と思いつつ、何かで取り上げられていたのがおもしろそうで手に取った本。
慶應義塾大学出版会が出版した4200円の本。論文を本にしたのかな。

意外な話からスタートする。

蒸発妻 だ。

私より一回り上の世代、昭和50年前後に流行ったようで。
性の不一致で蒸発、等と週刊誌を賑わしていた。

そして拉致。北朝鮮拉致。

さらに自殺。精神的苦痛から逃れるための自死。

残されたものからすればどれも失踪と言える。
なるほどそう考えると少しは失踪も馴染みがあることを認識できる。

そして本丸。
実際の失踪者、元失踪者のインタビューを通じて、
失踪の実態を探る。

厳しい親から逃れたくて。
借金から逃れたい。
仕事の切れ目で。

著者はこれを「責任」をキーワードに語る。
今属している家族、地域、、、周囲とも世間ともいえる、、、の責任を逃れるために、
失踪するのだ。
人はそれを無責任、と呼ぶ。

親から逃れたいくらい臆病な人が、新たな社会に身一つで飛び込むという勇気をもつ二面性。

いや、そこまで考えずに動いているのだと思う。
残されたものがどうなるか。縁を絶った人間が新しい社会でどう生きることができるか。
考えてないから、それこそ無責任だからそういうことができる。失踪できる。
私はそんな風に考えた。

そして最近、人間の行動を考えるとき、野生動物の群れだったらどうするだろう、
と考える。
対して動物の群れを知っているわけでもないくせに、とも思うが、
原点はそこだ。

そもそもつがいだけで子どもを養う、という今日の日本社会の姿が
野生動物的にありえない、とは思う。集団で子育てするのが基本。
しかしその時点で掟が生まれる。
集団のルールを無視したものは罰せられる。
野生動物で親が失踪した場合、子はどうなるのだろう?
集団が育ててくれるような気もするが。
人間社会の社会保障がそれに当たるのだろう。昔だったら村で育てたろう。
もともとくらやみ祭りの乱交で生まれた子は誰の子でなく村の戸、という話も聞く。

その意味で、家族が最小単位になってしまったことも、
失踪の重みを増すことになったのかもしれない。
この本の趣旨とは違うが。

「責任」をキーワードに、私も考えさせてもらった。
難解な個所も多々あったが、全体として刺激を受けた。
感謝。



はじめに

Ⅰ いま、失踪を問う意味

第1章 なぜ私たちは「親密な関係」から離脱しないのか
1 自殺について
2 「無縁」のイメージの変容
3 「純粋な関係」の出現と、親密性の変容
4 「親密な関係」からの離脱に対する抵抗感の根拠(リスク・愛・外的基準)
5 失踪の社会学へ

第2章 失踪の実態はどこまで把握可能か
1 諸概念の整理(失踪・家出・蒸発・行方不明)
2 失踪の件数と内訳
3 失踪発生後の一般的な流れ
4 「現代的な問題」としての失踪?

Ⅱ 失踪の言説史

第3章 失踪言説の歴史社会学――戦後から現在までの雑誌記事分析
1 失踪言説の分析は何を語るのか
2 失踪言説の戦後史――「家出娘」と「蒸発妻」
3 失踪言説の背後にあるもの①――家族の戦後体制
4 失踪言説の現代史
5 失踪言説の背後にあるもの②――個人化
6 雑誌記事における失踪批判の論点

Ⅲ 当事者の語る失踪
第4章 失踪者の家族社会学
1 失踪の当事者の研究へ
2 「社会的死」と「曖昧な喪失」
3 研究の方法――失踪者の家族へのインタビュー
4 さまざまな失踪のかたち
5 失踪者の家族たちの特殊な経験
6 失踪者はなぜ失踪してはいけなかったのか

第5章 失踪者の家族をいかにして支援すべきか――MPSの取り組みから
1 「曖昧な喪失」理論の問題点
2 研究の方法――支援団体に対するケーススタディ
3 MPSのプロフィール
4 情報提供者としてのMPSスタッフの語り
5 情報提供者がなしうるケアとは何か
6 共に物語を作るという可能性
7 失踪に対する筆者の立場

第6章 失踪者のライフストーリー
1 失踪者本人への問い
2 先行研究の検討(家出・蒸発・runaway・ホームレス)
3 研究の方法――失踪者のライフストーリーを聞く
4 〈失踪〉経験者のライフストーリー①――家族からの離脱と応答の拒否
5 〈失踪〉経験者のライフストーリー②――自殺未遂から失踪へ
補論 〈失踪〉経験者のライフストーリー③――職場からの〈失踪〉

Ⅳ 「親密な関係」に繋ぎとめるもの

第7章 親密なる者への責任
1 責任という問いへ
2 本書における責任の定義
3 責任の「行為-因果モデル」
4 責任の「傷つきやすさを避けるモデル」
5 「親密な関係」と責任の倫理

第8章 現代社会と責任の倫理
1 「親密なる者への責任」の重要性の高まり
2 「神隠し」と〈逃がし〉の論理
3 自己責任論と親密圏の過負荷

終 章 行為としての〈失踪〉の可能性
1 〈失踪〉を実行させたもの
2 〈失踪〉は自殺の代わりになるのか
3 第三者からの承認であることの効用


参考文献
あとがき
初出一覧
索引
失踪の社会学:親密性と責任をめぐる試論
慶應義塾大学出版会
中森 弘樹

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